2022年11月09日 01:51
アナクシマンドロスのこと ― (2)アナクシメネスへの継承
続き。
Diog. Laert.の伝える学統によるとアナクシメネスはアナクシマンドロスの弟子だったそうなので(2.3)、迂路にも思えるがアナクシメネスについてまとめておく。なおアナクシメネスがパルメニデスの弟子となった(2.3)というのは年代的にあり得ない。これについてはDK 13.A1註1; 28.A3訳註(1)も同意見。アナクサゴラスを弟子とした(2.6)、というのも年代的にあり得ない。
学説
始元
「始元は空気であり、そしてそれ(空気)は無限なものである」(2.3)。原文を素直に読むと「始元は空気及び無限なものである」となるが、加来訳及びDK 13.A1の註に従う。なおシンプリキオスは「限定されたものであり、空気がそれである」(DK 13.A5)と伝えており逆に見えるが、これは恐らく「空気である、水であるといった形で(質的に)限定されたもの」の意味で、その空気自体は大きさにおいて(量的に)無限である、と解して良いだろう。
これは恐らくはアナクシマンドロスが「無限」の一語を導入して以来の面倒事で、例えばアエティオスはアナクシマンドロスの無限なものを量的無限と解した上で「それが空気なのか水なのか、何なのかを語らなかった」ことを非難している(DK 12.A14)。アリストテレスの言うように無限なものは欠如態(ibid.)と見做すべきなのでこの批判は中らないが、しかし少なくともアナクシマンドロスにおいて「無限・無際限」と「無限定・無規定」が同時に意味されていたことは確かである。
Diog. Laert.の紹介するアナクシメネスの学説はこの1文のみなのだが、シンプリキオスら(DK 13.A5-8)によると空気の濃密化・希薄化を生成のメカニズムとし、この運動が恒常的に行われている(動は永遠である)、と考えたらしい。アエティオス(DK 13.B2)はアナクシマンドロスに対するのと同じく、ここでも作用因の欠如を難じている。
アナクシマンドロスは生成を説明するために始元に対立的要素の内在を想定し、そのため始元自体が質的多様性・不均一性を有することになり「無限なもの」になった。対してアナクシメネスは濃密化・希薄化という概念を用いることで、始元の一元性・均一性を保持したまま動 = 変化を導入し生成を説明した、ということになるだろう。
天文学・宇宙論
これまたDiog. Laert.は1文しか伝えていない。曰く「星々は地球の下ではなく周りを運動している」(2.3)。同じことはヒッポリュトス(DK 13.A7)、アエティオス(DK 13.A12-14)も伝えている。空気の上に浮かぶ平板な大地(DK 13.A20)と、それを覆う半球状(球ではなく)の天球、という謂わば典型的な古代の宇宙観である。尤も天球自体は、それこそタレス(Cic. Rep. 1.22)乃至アナクシマンドロスが天球儀を作っている(2.2; cf. DK 12.A5)。
他に「月は太陽によって照らされている」(DK 13.A16)。これは最も早くはタレス(DK 11.A17b)に帰せられる他、アナクサゴラス(Plat. Crat. 409A-B; DK 59.A42(8), A77, B18)、ピュタゴラス(8.27)、エンペドクレス(DK 31.A30, B42-45)にも見える。アエティオス(DK 31.A60)はこれら(のうち数人)の名を列挙している。他方クセノパネス(DK 21.A43)、環状体と孔の説を採ったアナクシマンドロス(DK 12.A22)とパルメニデス(DK 28.A42, B14; 但しB15)は月が固有の光(火)を有つとし、またエピクロス(10.94)はこの問題を含め天文学・気象学に関しては原因の特定を留保している。
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