2024年05月12日 19:50
川崎市について俺が知っている二、三の事柄
解散の感慨を胸に、というほど熱心には追ってこなかったのだが、とにかくこのところ、THE FIRST TAKEのBAD HOP「Kawasaki Drift」を繰り返し聴いている:
音源(→YouTube)より明らかに全員更にスキルが上がってるよなあとか、でもBARKが登場するあのDOPEな感じやBenjazzyのパートの前半から後半への「急にどうした」という発狂感は弱いかなあとか、思うところはあるにせよ、ここに書くことでもなかろう。
音源(→YouTube)より明らかに全員更にスキルが上がってるよなあとか、でもBARKが登場するあのDOPEな感じやBenjazzyのパートの前半から後半への「急にどうした」という発狂感は弱いかなあとか、思うところはあるにせよ、ここに書くことでもなかろう。
この曲については「川崎区で有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるかだ」というT-Pablowのパンチライン(上述のTHE FIRST TAKEのバージョンでは言い換えているがそれもまた良い)が当時物議を醸したらしくて、俺は「未だにこういうギャングスタ気取りラップやってる連中がいるんだ」という程度の印象だったのだが、ただちょっと、それに加えて、思うところはあった。
こういう話は大して意味がないのでリアルでも滅多にしないのだが、とにかく、俺は東京、の23区外に生まれ育った。本当にちょい歩いて道を渡ると「区」なんだけど、俺が住んでいるのは「市」だった。勿論ガキの俺はそこに何か違いが存在するなどと意識するわけでもなく、また実際に所得なり教育なりの面でもそれほどの格差はなかっただろうし、最寄り駅から京王線にしばらく揺られれば新宿、或いは明大前で井の頭線に乗り換えれば渋谷にもすぐに出られたわけだが、ただあの頃の空疎な町の感じは染み付いている。
例えば俺は熊倉献の作品、『ブランクスペース』や短篇集『春と盆暗』がめちゃくちゃ好きなのだが、何がそこまで俺に刺さったのかと考え直してみると、ストーリーだの何だの以前にまずはあの「東京の郊外の可もなく不可もない町」の感じで、それは俺が無意識に見ないようにしてきたものだったのではないか、と思い当たった。何だかんだで、生まれ育った土地の影響というものは小さくない。
さて俺は、高校が横浜だった。なので毎朝自転車で駅まで行って電車に乗って、川崎市内の駅でバスに乗り換えて、片道1時間以上かけて通学していた。電車とバスに乗っている時間は全て読書に費やしたので時間を損したと思ったことはないし、大学の1年目のキャンパス(留年したから2年通ったが)もやはり横浜だったため同様の通学生活が続いたのだが、ただその後親が川崎市にマンションを買って引っ越して、今度は川崎から都内のキャンパスに通うようになった時には「いや効率悪ぃ人生じゃねえか?」とはちょっと思った。
そんなわけで川崎市には何年か住んだのだが、高校受験の時にバスで目的地たる高校へ向かった際、やたら車が揺れるには驚いた。えっなんでこんな道がガタガタしてんの? 川崎ってそうなの? というのが第一印象であった。
といった取るに足らない人生経験を積んでいた頃に、日本のヒップホップを聴き始めた。例えばOZROSAURUSが横浜をレペゼンするのは分かる。横浜は歴史もあり人口も経済規模も文化資本もある土地だから、そこを背負って立つぞという心意気は良い。その『ROLLIN '045』(2001年)と相前後して、札幌からTHA BLUE HERB、水戸からLUNCH TIME SPEAX、熊本から餓鬼レンジャー、名古屋からM.O.S.A.D.といった連中が続々と現れる面白い時代で、それはニトロが宇田川町をレペゼンするのと同じことであろうと思った。
で話を戻すとその頃に川崎市に移住し、大学に通い、留年を重ねた末に卒業しニート生活を経てようやく就職もし、その後は実家を出て色々なところで暮らした。ここでもう一つだけ覚えているのは、確か俺が埼玉に住んでいた頃、川崎の実家に帰省すると、近隣で殺人事件(夜道を歩いていた女性が殺されたとか)があって当該の道に犯人を探している旨の看板が立っていて、家族からも気を付けて帰れよと言われたことである。いや何をどう気を付けんだよ。
ところがそれから何年も経った頃、川崎からBAD HOPが生えてきた。けど川崎って何もないじゃん。ガチで何もねんだよ。ほんと東京から横浜とかへ行く時に多摩川を渡って通過するだけの土地だし、住んでみても別に不便はしない程度の都会ではあるんだけど、例えば公立の図書館やその他文化施設がなかったり(遠かったり)して、思い知ったね、俺は東京都でも神奈川県でも、こういう微妙な、中核部からちょっと外れたところに居を構えるしかない人間なんだなって。
日本は治安が良いという話があるが、リアルに殺人事件を身近に感じたのは上述した川崎市の件くらいだったと思う。俺が今たまたま住んでいる大阪は治安が悪いというネットミーム的な話もあるわけだが、場所は所謂キタで、ミナミには余り縁がないし、十三(じゅうそう)はミナミのサテライトみたいなところだと言われてそれはなかなか納得感があったのだが、でも殺人事件は見聞きもしない。n=1で何かを判断するつもりはないが、俺の中で川崎というのは軽くそういう扱いの土地になっているようだ。
そういうわけでBAD HOPも、まずは「今どきこういう成り上がり(rags to riches)的なギャングスタ気取りラップをやってる人たちいるんだ、はぇ~ん」という程度の感想だったんだけど、ただ楽曲としての完成度は抜群に高い。トラックがG-Eazy「No Limit」(→YouTube)を意識していることは明らかだが、各人の尖りまくったフロウがそれを上書きしている。川崎重工業もカワサキモータースも川崎市とは縁もゆかりもないので、こんな不良どもがKawasakiに跨って悪事を働くような曲に使われるのは迷惑千万ではないかと心配にもなるのだが、ただそいつらも、今になってWikipediaの記事を読み返すとその活動期間中にはコロナ禍でさんざんライブ中止とかの影響を受けていて、それを含めてこの世代の人たちなんだなと思って、解散したとなってもその先は見届けたい。
こういう話は大して意味がないのでリアルでも滅多にしないのだが、とにかく、俺は東京、の23区外に生まれ育った。本当にちょい歩いて道を渡ると「区」なんだけど、俺が住んでいるのは「市」だった。勿論ガキの俺はそこに何か違いが存在するなどと意識するわけでもなく、また実際に所得なり教育なりの面でもそれほどの格差はなかっただろうし、最寄り駅から京王線にしばらく揺られれば新宿、或いは明大前で井の頭線に乗り換えれば渋谷にもすぐに出られたわけだが、ただあの頃の空疎な町の感じは染み付いている。
例えば俺は熊倉献の作品、『ブランクスペース』や短篇集『春と盆暗』がめちゃくちゃ好きなのだが、何がそこまで俺に刺さったのかと考え直してみると、ストーリーだの何だの以前にまずはあの「東京の郊外の可もなく不可もない町」の感じで、それは俺が無意識に見ないようにしてきたものだったのではないか、と思い当たった。何だかんだで、生まれ育った土地の影響というものは小さくない。
さて俺は、高校が横浜だった。なので毎朝自転車で駅まで行って電車に乗って、川崎市内の駅でバスに乗り換えて、片道1時間以上かけて通学していた。電車とバスに乗っている時間は全て読書に費やしたので時間を損したと思ったことはないし、大学の1年目のキャンパス(留年したから2年通ったが)もやはり横浜だったため同様の通学生活が続いたのだが、ただその後親が川崎市にマンションを買って引っ越して、今度は川崎から都内のキャンパスに通うようになった時には「いや効率悪ぃ人生じゃねえか?」とはちょっと思った。
そんなわけで川崎市には何年か住んだのだが、高校受験の時にバスで目的地たる高校へ向かった際、やたら車が揺れるには驚いた。えっなんでこんな道がガタガタしてんの? 川崎ってそうなの? というのが第一印象であった。
といった取るに足らない人生経験を積んでいた頃に、日本のヒップホップを聴き始めた。例えばOZROSAURUSが横浜をレペゼンするのは分かる。横浜は歴史もあり人口も経済規模も文化資本もある土地だから、そこを背負って立つぞという心意気は良い。その『ROLLIN '045』(2001年)と相前後して、札幌からTHA BLUE HERB、水戸からLUNCH TIME SPEAX、熊本から餓鬼レンジャー、名古屋からM.O.S.A.D.といった連中が続々と現れる面白い時代で、それはニトロが宇田川町をレペゼンするのと同じことであろうと思った。
で話を戻すとその頃に川崎市に移住し、大学に通い、留年を重ねた末に卒業しニート生活を経てようやく就職もし、その後は実家を出て色々なところで暮らした。ここでもう一つだけ覚えているのは、確か俺が埼玉に住んでいた頃、川崎の実家に帰省すると、近隣で殺人事件(夜道を歩いていた女性が殺されたとか)があって当該の道に犯人を探している旨の看板が立っていて、家族からも気を付けて帰れよと言われたことである。いや何をどう気を付けんだよ。
ところがそれから何年も経った頃、川崎からBAD HOPが生えてきた。けど川崎って何もないじゃん。ガチで何もねんだよ。ほんと東京から横浜とかへ行く時に多摩川を渡って通過するだけの土地だし、住んでみても別に不便はしない程度の都会ではあるんだけど、例えば公立の図書館やその他文化施設がなかったり(遠かったり)して、思い知ったね、俺は東京都でも神奈川県でも、こういう微妙な、中核部からちょっと外れたところに居を構えるしかない人間なんだなって。
日本は治安が良いという話があるが、リアルに殺人事件を身近に感じたのは上述した川崎市の件くらいだったと思う。俺が今たまたま住んでいる大阪は治安が悪いというネットミーム的な話もあるわけだが、場所は所謂キタで、ミナミには余り縁がないし、十三(じゅうそう)はミナミのサテライトみたいなところだと言われてそれはなかなか納得感があったのだが、でも殺人事件は見聞きもしない。n=1で何かを判断するつもりはないが、俺の中で川崎というのは軽くそういう扱いの土地になっているようだ。
そういうわけでBAD HOPも、まずは「今どきこういう成り上がり(rags to riches)的なギャングスタ気取りラップをやってる人たちいるんだ、はぇ~ん」という程度の感想だったんだけど、ただ楽曲としての完成度は抜群に高い。トラックがG-Eazy「No Limit」(→YouTube)を意識していることは明らかだが、各人の尖りまくったフロウがそれを上書きしている。川崎重工業もカワサキモータースも川崎市とは縁もゆかりもないので、こんな不良どもがKawasakiに跨って悪事を働くような曲に使われるのは迷惑千万ではないかと心配にもなるのだが、ただそいつらも、今になってWikipediaの記事を読み返すとその活動期間中にはコロナ禍でさんざんライブ中止とかの影響を受けていて、それを含めてこの世代の人たちなんだなと思って、解散したとなってもその先は見届けたい。
│雑記